後藤先生の中国文学エッセイ
3月といえばAppleの新製品が発売される季節です(よね?)もうすぐ新型のiPadが出るとか出ないとか……そわそわしますね。
ところで、少し前に中国でこんなツイートが出ました。
iPad Air 2024两个尺寸的壳膜国内一些厂家都在给海外客户发货了。万事俱备,只欠东风。
どうやらiPad Air 2024のケースが中国から海外に向けて出荷されたようです。これは発売間近とみていいでしょう。楽しみ!
ところで最後の8字はどういう意味でしょうか? 前の4字は準備万端ってことですが、あとの4字は東の風がどうたらこうたら……ちなみに手元の中日辞典にはありませんでした。
でも大丈夫、いまどきはパソコンが翻訳してくれますから、有名どころの機械翻訳に頼んでみましょう。
・DeepL:準備は万端、あとは東風が吹くだけだ。
・Google:機会を除いてすべての準備ができています。
・百度(Baidu):準備万端整っていて、東風に欠けているだけだ。
・ChatGPT:準備万端、あとは風の吹き方次第です。
はて、どれを見てもサッパリ意味が通じません。それもそのはずで、この部分は『三国志演義』の有名な「赤壁の戦い」の一場面を使っているからなんですね。
『三国志演義』は三国時代を舞台にした小説で、「赤壁の戦い」は日本でいえば「関ヶ原の戦い」にあたるものです。中国の北方を占拠した曹操が、南方に陣取る孫権を攻めて天下統一をもくろんだのですが、孫権側には劉備の部下の諸葛孔明という人物がついて入れ知恵します(『パリピ孔明』の孔明です!)
孫権と部下の周瑜は曹操の大船団を焼き討ちしようと準備万端ととのえるのですが、しかし周瑜は悩みます。いまは冬で冷たい北西の風が吹く季節、そのまま火を放てば、南側にいる自分たちのほうに火が燃え広がってしまう……
そこにやって来た孔明は当然すべてお見通し。「準備万端ととのったけど、東からの風だけが足りないんでしょ?」ってことで、天に祈って東風を吹かせてしまいます! さすが孔明!! 孫権軍はこの風に乗じて曹操軍を火攻めにし、何とか追い払ったのでした。
ここまで来たらもうわかりますよね。「只欠东风(ただ東風を欠く)」は最後の重要な一手が足りていないこと、つまり上のツイートでは「あとはAppleからの正式発表を待つだけ」ということになるでしょうか。
何かと入り用な新学期、買う気満々の私にとっての「東風」は妻の許可ということになりそうです(涙) 孔明、来てくれへんかなぁ……