第1回「春に、冬に、そして夏にも」 ―黄先生の「好喫」エッセイ
筍のシーズンはいつごろ?」と仮に聞く者がいたら、愚問だと一蹴されるでしょう。「春に決まってます! その通りです。浙江の知人友人もこの頃自作の筍料理(写真)を送ってきます。
上の写真は最もポピュラーな「红烧春笋五花肉」(豚バラ肉との醬油煮)ですが、「烧」は焼くではなく加熱、「笋」は筍の中国語です。
バラ肉は余りあった油が削ぎ落されスマートに変身し、その油を引き込んだ筍のほうはえぐみが和らぎ香りも重層的になります。まさに互いに相手の良さを引き立たせる好例で、万人に愛されるといってもけっして過言ではないです。
さて、この料理名ですが、「笋」の前に「春」がつくことに気づいたでしょうか。そうしたのは、他の季節にも筍が採れるからです。
まずは「冬笋」です。 山はまだ雪の季節、僅かな土の変化から地下に筍あり!とプロが判断されたら、やや高級な食材として市場に出回ります。年末年始の土産にでもしたら、贈られる側が満面の笑顔になることに間違いなしです。
存在感のある春物と比べ、「冬笋」は小さくてコロコロと可愛く、味もより柔らかく淡泊です。それを活かし「金华火腿」(金華ハム)と蒸したり、干し豆腐と和えたりします。 実家の食卓によく上ったのは「咸菜蒸冬笋」(青菜の漬物との蒸し料理)で、両方のうまみが交わりあい、1+1=4か5になります。 この二つの素材に「年糕」(トック)を足した「咸菜冬笋丝炒年糕」はまさに絶品で冬の来る度に思い出します。
冬が過ぎ、春が過ぎ、夏を迎えた頃は細長い「扁笋」の登場です。
「扁」は薄く平たいという意味で、丸っこい「冬笋」や「春笋」と比べ、それが「扁平」に見えたことでしょう。夏のスープには、だしの出る材料として重宝されます。
温暖化が原因かどうかわからないが、近ごろ早々と春に出回ります。下の写真はその「扁笋」を主役とした「油焖笋」です。
油で炒めてから醬油に砂糖少々を入れるだけのシンプルな作り方で、メインに肉や魚料理があったら、副菜としてよく出されます。
「焖」は蓋をしてごく少量の水分に弱火で味を染み込ませる調理法になります。
では、「秋笋」なるものもあるでしょうか。さすがにそれはないが、中国人の筍への情熱は新鮮なものに留まらず、それを塩漬けにしたり干したりします。
漬物はかさばるが、大きくてたくさん採れる「春笋」を干した「笋干」は家庭でもよくつくられます。庭のないマンションの住人は洗濯物を干すベランダで広げます。
切って塩ゆでをし、カリカリに干したら瓶やカメに詰めます。
夏になると、発酵が進みうまみの増した「笋干」をカメから一つまみ出して水に投げ入れ、1~2種類の夏野菜を足すだけであっという間に美味しいスープの出来上がりです。
この塩味とうまみをたっぷり含んだ「笋干汤」こそ、暑さで萎えた胃袋を慰めてくれます。「汤」は中国語でスープを指す漢字です。
ところで,「如雨后春笋般」という言葉が中国語にあります。同じようなものが急にたくさん現れるときに使うわけですが、同じ言い方が日本語にもありますよね。